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日本はアメリカによる強い要求と、自己資本のなかに保有株式の含み益を入れるという案に説得され、受け入れてしまう。 この株式の含み益を資本として認めるという案についてはドイツやフランスから警告もあったが、八七年以降、日本の銀行は株価の上昇のなかで八%の自己資本比率は難なくクリアできた。
悲劇が襲うのは、九○年に日本のバブルが崩壊して株価が急落を始めてからだった。 イーサン・Kさんの『世界経済を統治する』は、このBIS規制にはアメリカ国内の銀行を規制すると同時に、当時、アメリカ金融市場を席巻しようとしていた日本の金融機関を抑える目的があったと示唆している。
苦しんだからというわけである。 しかし、これなど「結果から原因を考える」という論理学における初歩的な間違いといってよいだろう。
Kさんだけでなく、当時の金融問題の専門家たちが、アメリカによる日本の銀行への牽制であったことは当然として論じていた。 しかも、Kさんなどは、アメリカの銀行による要請やアメリカ政府の政治的意図について詳細に分析しており、K銀行の関係者による「国情を無視したBIS規制は失敗だった」という証言まで紹介しているほどだ。
今回のBIS規制改革案が、自己資本の目減りを防ぐための「保険」を構想しているというのは実に興味深い。 BIS規制は自己資本率の目減りによって野放図な融資を阻止し、日本の銀行による攻勢を牽制するものだったからだ。
つまり、この規制では正常なフィードバックは生まれないから、保険の仕組みで是正しなくてはならないどいっているわけである。 バブル研究の権威が提示した「解決法」も保険だった同じように、激しい経済の落ち込みのなかで、アメリカでは国民の救済策が次々と提示されている。
しかし、提示はされても効果が生まれるまでには、まだ粁余曲折が予想される。 O新大統領は当選してからの二カ月の間、むしろ、具体的な救済策には触れないようにしていたといわれる。

二○○九年一月に、正式に大統領に就任した瞬間、具体案を国民の前に提示して一気に高揚させるサプライズ効果を狙っていると論じる人もいた。 だが、すでに民主党系の経済学者たちから多くの案が提示されていた。
なかでも興味深いのは、Bさん・Sさんの『ザ・サブプライム・ソリューション』が提示している「解決策」だった。 Sさんは、当面はサブプライム問題で家を失いかけている国民に対しては、低金利かつ長期のローンに組み替えるなどの救済策を実行しているが、問題はその先である。
この混乱を切り抜けた後、再びサブプライム問題のような事件を引き起こさないためにはどうするべきなのか。 Sさんは意外にも「保険」を充実すべきだというのである。
第一に、金融に関する一般向け情報インフラストラクチャーの充実。 第二に、経済的リスクを広範囲にカバーできる金融市場の監視の仕組み。
多くの疑問が湧き上がってくるが、ともかくSさんの話を聞いてみよう。 第一が、「情報インフラストラクチャー」を充実きせると、バブルは起こりにくくなるという。
そのためには六つの方策を提示している。 まず、金融についてのアドバイスを促進し、次に、消費者指向の政府系金融監視機関を設立し、そして、ほとんどの個人に対して有効な債務不履行に関する慣習や標準を採用する。
また、金融保険についての情報公開を進め、ざらに、個々人が自分の経済状況について知ることのできるデータベースを創設し、加えて、新しい分かりやすい経済指標のシステムを作り上げる、というわけだ。 第三に、一般の人が使える金融的な手段の創出。
これは継続的に有効な住宅ローンや住宅資産保険などを含み、消費者にMさん強力な保険を提供する。 何か釈然としないが、ともかくSさんは住宅に関する情報を充実させて、金融市場で不正を働く輩を排除し、一般の人が容易につかえる金融商品U保険によって、損失から身を守れるようにしろというのである。
第三の、「一般の人が使える金融的手段の創出」にかんしては、住宅ローンは市場の変化に対応できる保証付きのものにすべきだという。 つまり、今回のサブプライム問題で起こったような、予測できないリスクが急速に高まったとき、支払い条件の変更などを織り込んだローンを組めるように、最初から制度を整備しておいたほうがよいというわけである。
ここ第二が、「金融市場の監視の仕組み」だが、これは現在の「消費者商品安全委員会」をモデルにして、「金融商品安全委員会」というような組織を作るべきだとしている。 そうすれば、現在の情報インフラストラクチャーの欠陥を是正できるというのだ。

この委員会は金融商品の安全性についての情報源となり、そうした安全性を保証する規制を課すことになるだろう。 驚くべきことには、金融商品の安全についての問題は、いまのアメリカにおいて、いかなる主要金融規制機関も管轄してなかったのである。
こうして情報インフラストラクチャーを強化すれば、投機的バブルを形成する社会的な感染や情報カスケードを解消するのに大きな寄与をすることになるだろう。 ここまで、自分たちが作った指標を信頼してよいのだろうか。
そもそも、すでに触れたように『根拠なき熱狂第二版』でSさんは、今回の住宅バブルにおいて、自分が作った「ケース・S指標」が投資家たちに投資の情報を提供したことで、かえってバブルを加速してしまったのではないかと疑っていたのだ。 ところが、この『ザ・サブプライム・ソリューション』では、住宅バブルの崩壊を予想しこうした問題の解決に大きなブレーク・スルー(突破口)が生まれたのは、シカゴ先物市場でS指標を用いた、シングル・ファミリー向け住宅の価格先物市場が創設されたときだった。
この指標は、二○○六年五月以来、アメリカにおける住宅価格の激しい下落を予測していたのである。 しかし、Sさんが次のように言い出すとき、疑問を持つのは私だけではあるまい。
それも、分からないこともない。 いまの金融市場が破綻したのは、十分に機能していなかったためで、そのため金融工学でさらに市場を洗練させれば、本来の機能を発揮するようになる。

また、シンプルな金融商品を作れば、一般の人も参加できるようになるというわけだ。 これはサブプライム問題の解決策などではなく、危うい金融システムに、さらに、危うい屋上屋を架してしまうような話ではないのだろうか。
しかも、Sさんはこれを「金融の民主主義」などと呼んでいる。 その前提となる情報インフラの整備にしても、Sさんはすでに『根拠なき熱狂』において「社会的感染」と「情報カスケード」によってバブルが発生するメカニズムを分析していた。
S指標の登場は、住宅市場にとって朗報だという。 しかもSさんは、この指標を使った先物市場に、一般の国民も参加させようというのである。
ほとんどの人は先物市場で売買したことなどない。 彼らはそんな取引には慣れていないし、情報を持っていない人にとっては、先物市場での取引はきわめて危険なことになる。
そこで彼らが、この新しい先物市場に参加して、金融の民主主義を達成するために、シンプルな金融商品を設計する必要が生まれる。 ここで、少し話を迂回きせることにしたい。
Oさんが大統領選で果敢に唱えたのが「チェンジ」だった。

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